時流ではない自流

美容医療業界では派手に広告展開を行い、患者さんを獲得するクリニックが大きなシェアを占めているとされています。しかし、そんな美容医療業界に一石を投じた医師もいます。今回、Dr.TIMESの編集部が東京都恵比寿にある恵比寿ウエストヒルズクリニックの西岡弘記院長に、ご自身が目指す美容医療についてインタビューをさせていただきました。

「医の心=アート」を大切に 誰にでも公平な美容医療を

編集部 西岡院長が恵比寿ウエストヒルズクリニックを開業されるまでのキャリアを教えていただけますか?
西岡 東京慈恵会医科大学を卒業して、附属病院の形成外科に入局しました。東京厚生年金病院形成外科に勤務したあとに、東京慈恵会医科大学形成外科助教授になり、附属第3病院形成外科の指導医と診療副部長を兼任しました。東京慈恵会医科大学に在籍していた当時から美容医療に興味を持っておりましたので、先輩や知人の病院の手伝いに行かせていただいたこともあります。 東京慈恵会医科大学を辞めたあとは、美容外科クリニックの顧問医師や院長を務め、2011年に恵比寿ウエストヒルズクリニックの開業に至りました。
編集部 独立して、自らのクリニックを開業されたのには、どういった理由があるのでしょうか?
西岡 美容医療の世界は広告合戦によって、医療技術の質とは別の尺度で、患者さんの獲得競争が繰り広げられている面が拭えません。色々とトラブルが起きたり、「医の心」を欠く対応をしていたりするケースもみられます。そこで、「患者さんに嘘をつかない適正な医療」を提供したら、世間に受け入れられるのか、試してみたくなったことが開業を決意した一番の理由です。開業にあたってはこれまで一緒に働いたことのあるスタッフの中からヘッドハンティングし、患者さんへの対応がよく、私の目指す医療に賛同してくれる人を集めました。

「適正な医療」を志す

編集部 「適正な医療」を志す根幹には、美容医療に関するどういった考えがあるのでしょうか。
西岡 母校である東京慈恵会医科大学の学長を務められていた阿部先生の「医学はサイエンスによって支えられたアートである」というお言葉があります。阿部先生は、当時、「アートとは「医の心」を持った技量をも意味する」とも述べておられました。 医療はサイエンスですが、美容医療をアートとして完成させるためには、医療技術に加えて、心地よい対応も必要であり、患者と医師の個人と個人との信頼関係を変えてはいけないという意味も込められていると考えています。 しかし、広告合戦が繰り広げられている現状では、「医療=サイエンス」が劣っていたり、「医の心=アート」を欠いていたりすることによって起こる事故が散見されるのです。
編集部 西岡院長は「適正な医療」という考えのもと、実際にどのような姿勢で美容医療を提供されていますか?
西岡 私が重視しているのは現在の美容医療でできる最善のことを患者さんに提供するという点です。例えば「切らない治療」を掲げる美容外科もありますが、投薬やレーザー治療といった、切らなくてもできる治療にこだわっていくと必ずどこかで限界を迎えます。 当院では患者さんが自分で選択できるように、切る治療法と切らない治療法の両方を提示しています。医療費の面では、最新の高額な治療方法を行うと経営的には儲かりますが、結果がさほど変わらないのであれば、患者さんにはリーズナブルな方法を提案する姿勢を取っているのが特徴です。 また、「安かろう、悪かろう」の医療にならないように、クリニックには負担になる高価なものであっても、患者さんの体への負担を減らせるものであれば取り入れていく方針です。
編集部 実際にコストを度外視して導入されているものには、どういったものがありますか?
西岡 たとえば例を挙げるとヒアルロン酸注射をはじめ、手術でも注射を行うことから、注射針にこだわり、患者さんの負担を減らす取り組みをしています。 内出血や痛みを減らすために、極細の特注注射針も使用しております。注射針は細すぎると注入するのが難しくなるため、ヒアルロン酸を注入できる限界の細さの外径0.15ミリ、内径0.1ミリのというサイズにしています。自分自身でも実際に試して、内出血や痛みが軽減できることを確認しました。
編集部 開業にあたって苦労された点はありますか?
西岡 開業したのが東日本大震災から間もない時期だったこともあり、軌道に乗るまでに時間がかかったことですね。「適正な医療」をやりたいと思っていても、実績のない美容クリニックに患者さんはなかなか来ないのは当然ですが。 「やはり、広告を出すべきなのか」、「美容業界は広告合戦が当たり前なのだろうか」と迷った時期もあるのが正直なところです。しかし、私にはそれはできませんでした。「適正な医療」を地道に提供していくうちに、わかってくれる人が増えていくことを信じて地道な努力を続けていくと、少しずつ患者さんが来るようになったんです。
編集部 様々な困難を乗り越えてクリニック開業に至ったのですね。では医師になられてからこれまでで苦労されたことや乗り越えてこられた壁や試練、またはそこから得られたことをお話しいただけますか。
西岡 先ほどお話ししたように、私ははじめに大学病院に入り、形成外科でキャリアを積んだあとに美容外科業界へと足を踏み入れました。大学病院にいたときはかなりハードな毎日を過ごしていたように記憶しております。 当直(泊まり込みの勤務)があって休みも少なく、体力的にシビアな面があったり、その合間を縫って学会で発表する論文を書く必要があったりと、目が回るようでした。またその激務ぶりに比べて収入も決して高くはありませんでした。 けれどハードだったからこそ身に付いたことは数多くあったと思っています。経験を豊富に得られましたし、知識を貪欲に修得しようとする習慣がおのずと身につきました。あのときの経験が現在の私の根幹のひとつを形作っています。 当直があったり学会発表に備えたりと、形成外科医時代は厳しいものがありましたが、お給料は美容外科医の方がずっと高いといった事実があり、それでみんなの価値観が狂ってしまうということはあると思います。
編集部 西岡院長はどういった理由で実際に美容業界に足を踏み入れようと思われたのですか?
西岡 私が大学病院を離れて美容クリニックに就職したのは、その内実をまだ知らず、優れたところ、学ぶべきところがあるのではないかと思ったからでした。 症例も集まっているだろうし、そこでどんなサービスが提供されているか知りたかった、というのがあります。最新の器材を導入していたり、患者さんの要望をきちんとヒヤリングするシステムを備えていたりするのだろうとも思っていました。けれど実際は違いましたね。
編集部 ではこれから美容外科クリニックを初めて訪れようとしている人は、どのような基準でクリニックあるいは医師を選んでいけばいいでしょうか?
西岡 色々な判断材料があると思いますが、私であればまずそのクリニックのホームページを開いて医師の経歴を確認します。そこに実績のある病院や団体での勤務歴があれば良いですね。 資格を絶対視するわけではありませんが、容易に取得できないことは事実なので、判断のための大きな材料となります。ただもちろんそういう経歴や資格だけではその医師のパーソナルな部分を判断しきれません。そこはやはり最終的には会って話をする、コミュニケーションを取ることが重要になってくると思います。
編集部 いわゆる口コミというのはどこまで信頼できるのでしょうか。
西岡 美容業界の特殊なところは、例えば飲食業界と比べて、自分が受けたサービスのことを周囲に話しにくいという点があります。 「私この前美容整形で鼻翼形成術を受けたんだけど、あのクリニックすごく良かったよ!」と周りに話す人はあまりいないでしょう。性質上口コミが広がりにくいんです。

「エビクリ」が提案するクリニックづくり

編集部 どんなことにこだわって、クリニックづくりをされていますか。
西岡 美容クリニックですので、院内の雰囲気は清潔感が感じられることに重点を置いています。エステティックサロンのような雰囲気で、患者さんが落ち着いて心地よく過ごせる空間づくりにこだわりました。 また、個室を完備し、小さなお子さんを連れて来られる方でも来院しやすいように配慮しています。職業柄人目を避けたい場合には、個室を待合室として利用いただくことで、受付から処置室まで他の患者さんに会わずに済むような対応も可能です。一方で診察室や手術室は医療施設としての機能を追求しています。
編集部 クリニックの診療や運営の面で、重視されているポイントを教えてください。
西岡 当院には著名人や大企業の経営者の奥様などのVIPもいらっしゃいますが、患者さんへの対応の面では「医学の前ではどんな方も同じ人間」という考えから、全ての患者さんをVIPとして扱うという意識を持っています。 当クリニックでは、施術方法を決める前に、学会の認定専門医によるカウンセリングを行い、患者さんのお悩みをお聞きするようにしています。お一人お一人の要望やライフプランに応じた、診療方針を提案させていただくことで、継続的に美と健康を維持していただきたいとの想いからです。入院での施術が難しい患者さんもいらっしゃいますので、日帰り手術にも対応しています。場合により、全身麻酔も行っています。
編集部 スタッフの採用や研修についてもお聞かせください。西岡院長はご自身のクリニックにスタッフを採用する際にどのような基準を設けていますか。またどのような事柄を優先順位の上位に置いていますか。
西岡 技術的なことはもちろんですが、突き詰めていくと医師業は接客業ですので患者さんと適切なコミュニケーションを取れることを私は強く求めています。これは何度か既に話で触れている、患者さんと真摯に向き合うという当クリニックの理念にも合致するものです。病院内で行われる全ての事柄は患者さんとのコミュニケーションに帰結するからです。 また研修については定期的にスタッフ同士で勉強会の開催や、あるいは外部に有意義なセミナーや集まりがあれば、それに積極的に参加するように推奨したりしています。やはり患者さんのためにも飽くなき探求心が必要とされていると私は信じています。それによって時代に合った美容医療を患者さんに提供できるのです。
編集部 カウンセリングのあり方はクリニックによって様々だと聞いています。恵比寿ウエストヒルズクリニックではどのように取り組んでいますか。
西岡 私たちとしては、当たり前のことを当たり前のように行っています。これはこういう手術で、こういう効果があり、これくらいのダウンタイムが必要ですよ、と伝えるべきことは全て正確に伝えます。副作用の危険性がある場合ならもちろんそれも正直に伝えます。 その当たり前のことができていないクリニックが多いんです。患者さんを不安にさせるのでダウンタイムの長さや副作用について話さないクリニックもあれば、売上を上げるために嘘を言うところもあります。
編集部 嘘、というのは具体的にどのようなことなのでしょうか。
西岡 二重瞼の手術を例に取ってお答えしましょう。 他院では1万円、当クリニックは12万円で行うと宣伝するとします。そうすると患者さんはどうしても1万円に魅力を感じ、そちらに流れてしまいます。 けれど実際に訪問してみると広告に1万円と出ていたのに、なんだかんだ理由をつけ、ひどい場合は1万円の方法では失明の可能性があるとかなんとか言って、20万円の手術にしなさい……という風にカウンセリングの途中で言われるとします。患者さんはもうクリニックを訪問してしまっていますし、そのまま20万円の手術に同意してしまう場合が多いんです。 こういうやり方が実際に溢れているそうです。それも医師はカウンセリングの最初の5分だけ患者さんと話してもういなくなってしまい、あとは高額なメニューへと誘導するエキスパートのカウンセラーに引き継いでしまうんです。
編集部 エキスパートのカウンセラーとはどういう人たちですか。
西岡 言葉の通りです。高額のメニューに誘導することに長けていて、そのための訓練を積んでいる人たちがいるんです。その人たちは医師ではないですが、大学病院で働いている医師より多くの報酬をもらっている場合もあります。
編集部 なるほど。やはり患者さんも自らきちんとクリニックや医師を見定めないといけないのですね。アフターケアに関しても教えていただけますか。
西岡 アフターケアに関しても普通のことをやっているに過ぎません。バイ菌の感染がないか、固定部位がずれていないか、などを調べます。もちろん中には違和感を覚えたり仕上がりに満足できていない患者さんもいますが、そのときにはきちんと対応します。
編集部 医療現場の最前線に立たれていると様々な疑問や難題に直面されることもあると思います。医師業は一生勉強、常に学び続ける必要があるとも言われていますが、西岡院長は普段はどのようにして新しい知識を得られているのですか?
西岡 おっしゃるように日々の業務の中で疑問を抱いたり、関心を持ったりする事柄に多く直面します。 そういう場合、私は原則的にインターネット上の情報は鵜呑みにしないことにしているので、基本的に全て学会で確認するようにしています。そこに集まる医師たちと情報を共有することで新たな発見を得られることは非常に多いんです。そういう医師が集まるのがJSAPSもJSAS(どちらも日本美容外科学会)あるいは形成外科学会です。学会の開催は基本的に一年に一回ですが、参加している医師たちとは定期的に情報交換をし、互いに切磋琢磨しています。
編集部 美容医療で注力されている分野はありますか?
西岡 当院では、組み合わせ的な医療に力を入れています。例えば、ニキビの治療とともに、ケミカルピーリングとイオン導入、炭酸パックをセットで施術する「ebicli式PIC療法」と名付けている治療をご紹介します。 まずは、肌の修復や再生を促すことを目的にピーリングで薄皮を剥離します。 つぎに、イオン導入では、水溶性のビタミンCやプラセンタ、トラネキサム酸といった美容成分をエレクトロポレーションを使って肌の奥まで浸透させていきます。 そして、炭酸パックを行って血流の流れを促進し、新陳代謝を高めていきます。2週間に1回のペースで来院いただいて、5~6回、3カ月くらい続けていただくのが標準的です。 施術直後にお化粧することが可能で、多くの方に好評いただいています。

使命、ダイヤの原石に被っているホコリを払うこと

編集部 これまで美容医療を手掛けられてきた中で印象に残っているエピソードはありますか?
西岡 モデル志望の患者さんが、全身整形を希望されたケースが強く心に残っていますね。実際にはいろいろお話をして施術する箇所を決めて、目や鼻の整形手術と豊胸手術、脂肪吸引などを丸一日かけて行いました。 施術後、しばらく経ってからお話を伺ったときには、「モデルの仕事がきたり、恋人もできたりして、人生が一変した」と話されたんです。そのとき、頑張ったのは私ではなく、「変わろう」と決意した彼女自身なのだと感じました。 人生を変える一歩を踏み出せない方が多いですが、変わろうという力は誰でも持っていると思います。美容整形は賛否両論のある分野ですが、「ダイヤの原石に被っているホコリを払うこと」が、私たち美容外科医の使命だと思います。外見が変わって自分に自信が持てると内面も変わり、何かをやろうと決意しやすくなります。美容外科医の仕事も、社会貢献のひとつとも考えられるのです。
編集部 ある意味で美容整形を受けるハードルが世間的に低くなってきています。その中で医療事故というのはどうしても発生してしまいますが、これについて西岡院長はどのように思われますか?
西岡 まず医療事故というのは私を含めどの医師にも起こり得る問題であると認識していますし、そういう意識を持つようにスタッフたちにも日々話しています。 人の肉体を、人の命を扱う仕事ですから最大の敵は何より自分の中の慢心だと私は思うのです。だからこそ毎日緊張感を持って手術に臨まないとならない。それでも起こってしまう場合もあるのでしょうが、実際に起こっている医療事故は起こるべくして起こっていると私は考えます。
編集部 医療事故をあらかじめ避けることはできるでしょうか。
西岡 例えば当院で、全身麻酔が必要な手術の場合には、必ず麻酔医を呼ぶようにしています。それにはもちろんコストがかかりますが、患者さんに対しても提供すべきサービスですし、クリニックの運営の観点からしても必要なリスクヘッジです。何よりその分、自分自身が手術に集中できるようになります。目の前の手術に集中できる環境をつくることは医師にとって当たり前の責務と言えます。 また当院は全身麻酔の手術の際には基本的には医師である私、麻酔医、オペレーター、それにナース2人という5人態勢を取ります。もちろん多ければ良いということではありませんがこのような態勢を敷いております。

「エビクリ流」を貫いて

編集部 高い理念を抱かれている西岡院長ですが、今後の夢や展望をお聞かせいただけますか?
西岡 私の目指す「適正な医療」が、粗雑な美容医療を駆逐することができたかと聞かれたら、まだまだというのが正直なところです。しかし、私の考えに共感してくださった患者さんをはじめ、先輩やスタッフなどの仲間に支えられて、ここまでやってこられました。 ある先輩に、「優れたサイエンティストや傑出した才能を持つアーティストほど、時の流れや雰囲気に応じる時流ではなく、自分の器や正直な気持ちで動く自流を大切にしている」と諭されたことがあります。今後も時流に流されずに自流で、「エビクリ流」を貫いていきたいですね。開業したときの初心を忘れずに、医学的に裏付けらえた「サイエンス」をもとに、礼節の心を持った「アート」を提供できるように心がけていきたいです。 また形成外科医の活躍の場をもっと増やしたいとも思っています。やはり本場アメリカのように形成外科できちんと経験を積んだ医師がもっと多く美容整外科に携わるようになれば、今の日本のいびつな構造も良くなっていくと思っています。 確かな技術を持った医師が当たり前のことを当たり前に行い続ければ、いずれ患者さんの方でも本当に何が正しいのか気付いてもらえるはずです。私たち医師にとっても、色々な悩みを抱えている患者さんにとっても良い環境が生まれるのではないでしょうか。
編集部 患者さんにとってどんなクリニックになることを目指していますか?
西岡 おかげさまで、「エビクリ」という略称で親しまれるようになってきましたが、患者さんに「何か相談ごとがあるときは、恵比寿ウエストヒルズクリニック」と位置付けられるようになりたいです。 技術面の向上を図ることはもちろんですが、患者さんがリラックスして過ごしていただけるような空間づくりに、今後も、もっと力を入れていきたいと考えています。多くの患者さんに信頼いただき、当院に来てよかったと感じていただけるように、クリニックを運営していきたいと思います。
編集部 座右の銘がありましたら、お願いできますでしょうか。
西岡 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」ですね。 ドイツのオットー・フォン・ビスマルクの言葉です。
編集部 最後に患者さんへのメッセージをお願いします。
西岡 40歳前後になると加齢による衰えを感じ始めると思いますが、まだまだ元気という気持ちもあるのではないでしょうか。少しずつ美容に取り組んで、もっとエネルギーを持つことで、女性が人生をよりハッピーに過ごすお手伝いをさせていただければと思います。まずは1度、お気軽にカウンセリングにお越しいただいて、美に関するお悩みなどをお聞かせください。